Ⅱ. 放射線治療の特徴

 

1.どうして放射線で癌は治る?

 腫瘍に放射線を照射すると、放射線の作用で腫瘍細胞のDNAが損傷を受け腫瘍細胞が死滅します。(照射する放射線は、福島第一原子力発電所で問題となっている放射線と名前は同じですが、放射線治療に使用する放射線は、照射の時だけ腫瘍の部位にのみ照射します。)放射線治療は、腫瘍のある場所を対象として腫瘍にだけ集中して放射線を照射して治療するため、手術と同じ局所治療と云われます。しかし、腫瘍や組織を切除するわけではないので、手術と違って組織の機能や形態を残したままで治癒します。
 
放射線治療は、正常の組織や細胞は殺さないで腫瘍細胞を死滅させることで治療します。しかし、放射線を照射すると腫瘍と共に腫瘍の周りの正常な組織や細胞にも放射線が照射されてしまいます。ただ、放射線に対する感受性が腫瘍細胞と正常細胞では異なります。多くは腫瘍細胞の方が放射線に弱いので、この差を利用して放射線治療を行います。ただし腫瘍の種類によっては腫瘍細胞が正常細胞より放射線に強いものが有ります。この場合は、放射線治療の対象とならない腫瘍です。
 
 

2.放射線治療の役割

放射線治療の目的は、腫瘍を放射線で死滅させて治療することですが、腫瘍の種類、大きさや進展範囲、患者さんの状態などで治療の役割が異なってきます。
 
1) 腫瘍を死滅して治癒させることが目的の治療(根治治療と云います。)放射線治療単独で治療を行う場合で、喉頭癌、咽頭癌、肺癌、食道癌、子宮癌、前立腺癌、皮膚癌、悪性リンパ腫など多くの悪性腫瘍が対象となります。照射方法は、多くの場合一日1回、週4~5回の照射を5~7週間行います。照射の方法や線量、照射回数は腫瘍の種類や照射部位などにより異なります。手術などを行わないため臓器の形態や機能を温存することが可能に成ります。
 
2) 手術と併用して放射線治療を行う場合。手術の前に照射する(術前照射)は、放射線治療により腫瘍をできるだけ小さくして手術をしやすくするための照射であり、手術の途中で照射する(術中照射)は、手術で腫瘍を取った後に再発を予防するため手術の途中に照射する方法です。手術後に照射する(術後照射)は、手術で切除しきれずに残った腫瘍を照射する場合や、手術後の再発を予防するために照射します。特に術後照射は、多くの腫瘍の治療に行われており例を挙げると、乳がんの温存療法では乳房の腫瘍部分を切除後放射線治療を行うことを前提として手術を行います。頭頸部腫瘍、骨軟部腫瘍、食道がん、肺がんなどでも多く行われています。
 
3) 腫瘍によって引き起こされている症状を和らげるための治療(緩和治療と云います)。腫瘍の骨への転移による痛み、脳への転移による神経症状、腫瘍よる気管、血管、神経などを圧迫して生じている症状などを和らげる目的で行う放射線治療です。腫瘍全体を治癒することはできないかもしれませんが、腫瘍によって引き起こされている痛みや様々な症状を無くす目的で照射します。例えば、前立腺癌や乳癌の場合、治療後再発して骨に転移する場合が多くあります。骨転移は多くの場合痛みを伴いまた骨折の危険もあるため、放射線治療を行い骨転移を治療することはその後の患者さんの生活や治療に影響するため非常に重要です。
 
4) 治療後の再発腫瘍に対する治療手術、放射線治療、抗癌剤等を使用して治療をした後、数ヶ月や数年経過した後に腫瘍が再発することがあり、これらの再発した腫瘍に対する治療です。頭頸部癌、食道癌、肺癌、乳癌など多くの腫瘍では再発しても遠隔転移がなければ、また、再発部位が限局されている場合、放射線治療や再手術、抗がん剤との併用療法などで治癒する可能性があります。
 
5) 良性腫瘍等に対する放射線治療放射線治療の対象として悪性腫瘍(癌や肉腫)以外の良性腫瘍に照射する場合も多くあります。例として、血管腫、頭蓋内の良性腫瘍、脳血管の奇形、ケロイドなどの良性腫瘍が放射線治療の対象となります。
 
6) その他の放射線治療その他の放射線治療として、放射線を放出する放射性同位元素(RI)を、体内に刺入したり埋め込んだり、内服や静注して治療を行う放射線治療があります。詳細は「Ⅲ.治療方法」の組織内照射の項を参照してください。