Ⅲ. 放射線治療の方法

放射線治療の方法には、身体の外から放射線を照射する外部照射と、放射線源を直接身体内の腫瘍の部位や、腫瘍の近くに挿入して治療する密封小線源治療があります。多くの病院で行われている放射線治療は、放射線治療装置を使用して体の外から照射する外部照射であり、北海道内では現在36の病院で行われています。一方放射性同位元素を使用した密封小線源治療は約10施設で行われています。
 

1.外部照射

放射線治療施設を有している多くの病院は、患者さんの外から腫瘍の部位に放射線を照射する専用の放射線治療装置を用いて放射線治療を行っています。このように患者さんの外から放射線を照射する方法を外部照射といいます。外部照射に使用する治療装置は、一昔前はコバルト-60などの放射性同位元素が出す放射線(ガンマ線)を使用する治療装置が有りましたが、現在は、電子を電気的に加速してターゲットに当ててX線を発生させる装置が主流となっています。
一番多くある治療装置は、リニアック(直線加速器)と言われている装置で、北海道内に約40台(全国には約800台ある)有ります。その他にもガンマナイフ、サイバーナイフ、マイクロトロン、トモセラピー等様々な装置があります。これらの治療装置を使用した放射線治療方法は、「Ⅳ.放射線治療の手順」の項で詳細に示します。放射線治療装置は、厚いコンクリートなどで遮蔽した放射線治療室に設置されており、放射線が外に漏れることはありません。
 

2.密封小線源治療

放射線を出す放射性同位元素を使用した治療で、放射性同位元素(セシウム、イリジュウム、金、ヨウ素等のRI)を金属の容器に密封して、管、針、ワイヤー、粒状などの形状の放射線源を治療に使用します(福島原発事故で問題となっているセシウム(137-Cs)もこの一種で、放射線治療に使用されています。ただ、放射線治療に使用する場合は、容器に密封した状態で使用しますのでセシウムが飛散することはありません。)。
口腔内の腫瘍、舌癌、乳癌、前立腺癌などでこれらの放射線源を使用した放射線治療がおこなわれます。また、食道癌、子宮頸癌、肺癌などでは腔内にチューブを装着しその中に放射線源を挿入して治療する方法もあります。
照射方法としては、放射線源は一時的に体内に挿入し治療が終了すると抜去します。また、口腔内の腫瘍や前立腺癌の治療では、放射線源(金、ヨウ素のRI)を腫瘍部位に刺入したまま(永久刺入)にする治療方法もあります。これは、放射性同位元素が減衰して無くなっていく性質を利用して治療しています。
 

3.非密封の放射性同位元素による治療

ヨウ素を体内に投与すると甲状腺組織に選択的に取り込まれることを利用して、放射線を放出するヨウ素131という放射性同位元素を患者さんに投与(内服)して治療をを行う方法があります。この方法は、甲状腺機能亢進症や甲状腺癌の治療に用います。その他にも、腫瘍が骨に転移して痛みが有る場合は、放射線源であるストロンチウム89を患者さんに投与して、ストロンチウムが骨の組織に集まることを利用して治療が行われています。
 

4.その他の治療方法

(1) 定位放射線治療
この照射方法は、患者さんの外から腫瘍の部位に放射線を照射する外部照射の一方法で、病巣に対し多方向から放射線を集中させて照射する方法で、通常は1回から数回で照射します。治療の対象は、3cm以下の小さな病巣が対象となり、1~3mm以内の位置精度で一回に多量の放射線を照射します。この治療は脳の動静脈奇形、原発性良性脳腫瘍、転移性脳腫瘍、手術的治療が難しい頭蓋底腫瘍等に応用されています。また、体幹部の肺腫瘍や肝臓の腫瘍、脊髄の動静脈奇形にも使用されます。この照射を行うためには専用の固定具や付属装置が必要となり、この治療を行っている病院は限られています。
 
(2) 強度変調放射線治療(IMRT)
この照射方法は近年開発された照射方法で、患者さんの外から腫瘍の部位に放射線を照射する外部照射の一方法ですが、従来の照射方法とは異なり病巣に対し多方向から強度分布のことなる放射線を照射して、腫瘍に線量集中し正常組織の線量を少なくする線量分布を作ることができます。しかし、この照射方法は治療の前の治療計画に時間を要し、さらに患者に照射する前に線量測定を行って線量の検証が必要で、従来の方法に比較して複雑な照射方法です。また、コンピュータ制御のIMRT機能を有する治療装置が必要となり、この治療を行っている病院は限られています。
 
(3)粒子線治療
粒子線(荷電重粒子線)治療とは、最近注目をあびている放射線治療の方法で、陽子や重粒子(重イオン)等の粒子放射線を病巣に照射して悪性腫瘍を治療する放射線治療法の総称です。使用する粒子の種類によって、陽子線治療、重粒子(重イオン)線治療、パイ中間子治療等に分けられ、世界の各地で臨床応用や研究が行われています。現在日本国内で稼働中の粒子線治療施設は、重粒子線が3箇所、陽子線が6箇所となっています(2011年8月現在)。治療施設は、・南東北がん陽子線治療センター(福島県郡山市)、・相澤病院(長野県松本市)、・筑波大学陽子線医学利用研究センター(茨城県つくば市)、・国立がんセンター東病院(千葉県柏市)、・重粒子医科学センター病院 (千葉県千葉市)、・群馬大学重粒子線医学研究センター(群馬県前橋市)、・静岡県立がんセンター(静岡県駿東郡)、・兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県たつの市)、・若狭湾エネルギー研究センター(福井県敦賀市)、・福井県陽子線がん治療センター(福井県福井市)、・がん粒子線治療研究センター(鹿児島県指宿市)があり、現在建設中の施設が数カ所あります。現在、北海道内には粒子線治療装置は有りませんが、北海道大学病院で陽子線治療施設の建設が進んでいます。この治療はまだ保険適応になっていなく治療は先進医療のかたちになっていますので、一回の治療で約300万円の費用が個人負担で発生します。一方で治療装置は大型の加速装置や照射装置を必要とするため、施設全体で100億円を超える費用が必要となり、簡単に普及はできない治療装置となっています。